LESSON 1
涙(ルイ)

どこにも居場所がないような
そんなどうしようもない気分の午前1時
返ってこない友達からのメールの返信を待ちわびて
何度も何度も送受信ボタンを押してしまう悲しい習性
笑っている人が羨ましくもあるけど
なんだかよくわからないけど
心がささくれだって 痒くて痒すぎて
イライラしてしょうがないのです
この精神薬は眠くなるばっかりでちっとも効きやしない


こんなふうになるはずじゃなかったのにな
もっとちゃんとした大人になってるはずだったのに
気がついてみたら失調感情障害なんて病気なんか背負っちゃって
幻覚・幻聴・錯覚・悪夢にうなされ無気力状態
人に会いたくないし 人の笑い声を聞くのも耐えられそうになく
唯一 音楽を聴くことだけが救いといえば救い


自分の知らないところで 自分の悪口とか云われてるのかしら
なんて考えると怖くて仕方がなくなります
別になんとも思っていない人なんだからいいじゃないって思うけど
そう簡単に割り切れないから困ってしまうのです
八方美人にはなりたくはないけど
嫌なやつって思われたくなくて
ただ表面だけ笑顔を繕ってみせたりなんかして
そういうときの自分 鏡に映したらものすごい卑屈な顔してるもんだから
もうホント ビリビリに引き裂いて 燃えるゴミの日にでも出してしまいたい
なのにさ なのにやっぱり自分が可愛いのかな 
こんな自分でも なかなか棄てられるものでもなくって 
そんなときはいっつも 悔しくて情けなくて 
恥ずかしくって 自分が可愛そうでたまらなくって
思わず思わず 窓を開けて叫んでしまったのです
淋しくてしょうがないのです 虚しくてどうしようもないのです
誰でもいいから このやっかい者をどうにかしてくれないませんか
ねえ ホントに誰でもいいからさ
自分の都合のいいときばっかり 人を当てにするな
誰かが耳元でそう ささやいたような気がしました 


考え方次第で人はどうにでも変われると
そんなことは誰に云われなくたって
十分すぎるほどよく解っているのです
だけど 頭じゃ解ってることでも
変われないことってあるでしょ
あまりにもひどい目に合いすぎたために
これ以上ひどい目に合わないように
必要以上にいろんなことに身構えてしまう
ひと晩泣いて 夜が明けたら新しい自分に生まれかわってるなんて
街中で流れてる流行歌みたいに
現実はそううまく行くものではないのです
大体 変わらなければならない理由なんて
一体どこにあるというのでしょうか
ありのままの自分を受け入れなさい 
弱いから人間なのだと それでいいのだと
そう云ったのはあなたじゃないですか
辛い過去をなかなか忘れられなくたっていいじゃないですか
生きてるのがイヤになったら
自殺する選択肢くらい 持っていたっていいじゃないですか


この世のどこに居場所を見出せず うまく呼吸することさえままならないのに
死ぬことさえ許されないとしたら この先一体どうやって生きていったらいいというのでしょう


それともなんですか
あなたが生きるに値するすばらしいなにかを
提供してくれるとでも


足元を見れば案外近くに幸福は転がってるって
信じて下ばかり向いていたら
すっかり猫背になってしまいましたよ


幸福ってのは そこらへんに転がってるとかそういうんじゃなく
幸福だなあと感じることのできる能力のことかもしれないと
ふと そんなことを思いました


だから 思い出してみようと思ったのです
36年生きてきた中で 
幸福だと感じられた瞬間 出来事を


だけど どうしても思い出せないのです
殴られた痛みとか 投げつけられたひどい言葉とか
そういったことはまるで再現フィルムのように
鮮やかに蘇ってくるというのに


もうすっかり忘れてしまったってことなのでしょうか
辛かった記憶を上書き保存して消してしまったのでしょうか
そもそもそんなもの 初めからなかったのでしょうか


忘れてしまったのなら仕方がない
消されたものをあぶりだすことなんて不可能です


過去のことはもういい
何度も何度も掘り起こしてはかさぶたひっぺがえして
自分を痛めつけることでしか
生きてる実感がもてなかった今日までの日々


でも 私はこれでお終いではないのです
終わらせるわけにはいかないのです
これからもずっと
私は私を続けていかなければならないのです
つらいことやしんどいことは
きっとずっと続いていくことでしょう
それでも 泣いて生きるのはもう懲り懲りだから


できるだけたくさん
たくさんいいことを憶えておきたい
素晴らしい瞬間を忘れないでいたい


辛いことで満たされているこの心も
いつかやがて 思い出さずにすむ様に


LESSON 1
さあ はじめましょう
今日という日は
私たちが生きていくための
大切な墓標です



ここからすべてが始まるのです
すべてを 始めるのです



自由詩 LESSON 1 Copyright 涙(ルイ) 2013-07-03 06:55:01
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