ちっこい幸福論
HAL
朝 陽光と爽やかな風に気づいて
眼を醒ます
ふらりと入った喫茶店の
偏屈そうなマスターの淹れる珈琲がすこぶる美味い
擦れ違った女性の残り香は
懐かしい女性のディオリッシモ
他人様からみれば馬鹿みたいなことだけど
それが幸せだとようやくに気づく
生はそんな些細な幸で
できあがっているものだと知る
別に豪邸に住まなくとも
口座に何億という数字は幸を測るものではない
それは幸福の近似形でも
幸福の永久保証書でもない
善い人生はそんなもので
得られる訣じゃない
その辺の道端に転がる石っころのような存在が
実は繋がって人生はより善いものになることを
いまようやくに気がつく
もちろんこれまで幾度も挫けながら歩いてきた
吹きつづけたのは向かい風
背中から吹く順風はほとんどなかった
多分 残っている時間はきっと想う以上に少ない
でも終わりよければすべて善しとの先人の言葉
先人はつくづく偉いと
ため息ひとつつく
いい歳をした自分が可笑しい
それを信じてもう一歩踏み出す
いい歳をした自分が愛しい