言語化された街
佐々宝砂

言語化された街で俺はサボテンとして歩いていた 言
語化された街にある俺はサボテンとして記述された以
上サボテンとして歩く他なかったが かつて人間であ
った記憶の残滓が言語化されていたため 俺は上半身
サボテン下半身人間という姿で歩いていた なぜ下半
身が人間かというと下半身がサボテンではおそらく歩
けないからである

言語化された街は無風にして無人である 通りに沿う
家々の門扉は一様に舟の文様を持っており 俺はその
文様をペパーミント・グリーンとショッキング・ピン
クのポスターカラーで塗らねばならなかった サボテ
ンの枝は絵筆を持つに適さないので俺は足指で絵筆を
握らねばならなかったのだ

言語化された街で俺はサボテンとして絶望した なぜ
俺はポスターカラーなぞを門扉に塗らねばならぬのか
俺は嘆息して空を仰ぎ見た 俺のサボテンの目に(目
があると記述すればサボテンにも目はある)名付け得
ぬものが映った 俺は感動を禁じ得なかった おお!
名付け得ぬものよ 原初の混沌たる丸きものよ 無意
味にして無節操たる天空の狂女よ 月よ!

すると言語化された月が空にスルリとのぼった 俺は
沈鬱な思いで明るい満月を見つめた


自由詩 言語化された街 Copyright 佐々宝砂 2004-12-26 03:48:10
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