「林檎」
ベンジャミン


(不器用であることは、罪ではありません)


林檎の皮をどれだけ長くむけるだろうかと
無邪気にはしゃいでいる間に
途切れてしまった命はいくつ
あの赤い肌をすべっていったことでしょう


もしもあなたが
その赤い線のような林檎の皮に
からだをはしる幾すじもの流れを
感じることができるなら

いっそわたしは
赤い耳のウサギのかたちにして
あなたが美味しそうに食べるのを
嬉しそうに眺めていたい

(この いろ)
(この かたち)

まるで心臓みたいでしょ?
わたしけっこう器用なのよ

赤い耳のウサギつくれるもの
それがわたしの罪だとしても
甘い悦びがあなたの体を満たしてゆく姿を
静かに眺めてるわたしを許してくださいね

   ※

地球がまわる方へと
林檎を手のひらの上でまわしながら

もしもあなたがあの赤い林檎の皮に
命の面影を感じることができるなら
どうか祈ってやってくださいね

わたしのかわりに
どうか泣かずにいてくださいね
とても綺麗なあの林檎の赤い肌は
涙で輝かせる必要もないでしょうから


だって ほら


かじってもわたし
ちっとも痛くない


(痛く ない)


何かが
流れ出してしまうこともないのに


そうやって少しずつ
(わたしたち)
失っていくんだね

        


自由詩 「林檎」 Copyright ベンジャミン 2013-03-09 00:55:24
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