書こうとしたことを忘れてしまって
あおば

             130113


 不法な暴力行為を直ちに止めるように命じましたが、全く聞き入れてくれなかったばかりか、凶器まで振りかざしたのでやむなく腕力で阻止しました。被疑者は抵抗したので暴行罪と公務執行妨害の容疑で現行犯逮捕に及びました。
 緊張した顔で署長の顔色を窺いながら、事情聴取のメモを見ながら文書化している同僚の些か疲れた顔が昨日の自分に重なってきている。
 ケータイ電話では投稿出来ないツイッターにも参加できないのを恨めしく感じながらも
歌が好きだから本職にしようと上京したがどこのプロダクションを訊ねても歌唱はまあまあだけと歌手としての色気が不十分、他の道に行かれた方が好い結果を生むでしょうと言われ続け、やむなく歌は趣味で励むことにしたのです。幸い健康にも恵まれ丈夫な身体をもらったので首尾よく警察官になれたのですが、時々仕事中にも声にならない声が身体の底から湧き上がるリズムを生んで、我知らず思いきり歌いたくなることもあるのです。
 自転車で街を警邏しながら鼻歌を唄うのも職務上は許されないですから、非番の時間にカラオケルームへ行く機会も増えました。
 夢はみんなの前で制服姿でオリジナルを絶唱することです。




初出 「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/
タイトルは、kauzakさん。





自由詩 書こうとしたことを忘れてしまって Copyright あおば 2013-01-13 12:41:02
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