墓標のはざま
月乃助
雨がやんだ
塹壕に 糞尿のにおいが」もどってきた
雨のほうがましだ
・
複葉機が雨雲のしたを飛んでいきやがる
俺たちのことを 見棄てるのか
「「 ・・・・ こっちにもタバコをくれ
取っておいたって なんになる
独り言をつぶやくやつ、
残った弾の数を 数えるやつ、
後生大事にしている ボロボロの写真をみつめるやつ、
睫をふるわせながら 眠ったふりは、、、
神に祈るやつ、
・
俺たちはもうぐっしょりと 濡れ鼠で
ただ 濡れるにまかせ
「「 いったいこの世は どうなっていやがるんだ
Emiliaに会いたいじゃねいか 畜生
いい女だった 尻がでっかくて 子供なんか何人でもいけそうだった
・
痩せの連隊長が、立ち上がる
おめえも大変だ、
誰よりも先を 歩く羽目になっちまってよ
《 お前らよろこべ 戦争が終わった
今日の突撃はもう 取り止めだ
もう戦いは終わったんだ。 俺たちは、生き延びた 》
俺たちは、連隊長の口がそう言うのを 泣きそうになりながら
待っているのに
そんな奇跡は、ここではおこらない
「「 銃剣をつけろ
準備は いいか
・
神経を逆なでする 笛の音
「「 因果なもんだ
これが、運試しって やつか
*
フランダ‐ス
墓標のはざまに
一面の
無名戦士たちが 今も咲かせる花がある
血潮ほどの 紅い
芥子の花の群れ