墓標のはざま
月乃助


雨がやんだ
塹壕に 糞尿のにおいが」もどってきた
雨のほうがましだ



        ・



複葉機が雨雲のしたを飛んでいきやがる
俺たちのことを 見棄てるのか 


 「「 ・・・・ こっちにもタバコをくれ
    取っておいたって なんになる


独り言をつぶやくやつ、
残った弾の数を 数えるやつ、
後生大事にしている ボロボロの写真をみつめるやつ、
睫をふるわせながら 眠ったふりは、、、
神に祈るやつ、



         ・




俺たちはもうぐっしょりと 濡れ鼠で
ただ 濡れるにまかせ

 「「 いったいこの世は どうなっていやがるんだ
   Emiliaに会いたいじゃねいか 畜生
   いい女だった 尻がでっかくて 子供なんか何人でもいけそうだった




          ・






痩せの連隊長が、立ち上がる

おめえも大変だ、
誰よりも先を 歩く羽目になっちまってよ

《  お前らよろこべ 戦争が終わった
   今日の突撃はもう 取り止めだ 
   もう戦いは終わったんだ。 俺たちは、生き延びた 》

俺たちは、連隊長の口がそう言うのを 泣きそうになりながら
待っているのに

そんな奇跡は、ここではおこらない

「「  銃剣をつけろ
   準備は いいか




      ・






神経を逆なでする 笛の音

「「 因果なもんだ
  これが、運試しって やつか









                   *








 フランダ‐ス
墓標のはざまに
 一面の
無名戦士たちが 今も咲かせる花がある 
血潮ほどの 紅い
 芥子の花の群れ









自由詩 墓標のはざま Copyright 月乃助 2012-11-12 15:45:10
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