moonlight
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まどろんだ月のなかで出逢う
不思議にみたされた気持ち
夢に見ていた景色がいま
ここにある
肋骨が植えられた丘の向こう
あなたが手をふっている
にこやかに
僕も手を振り返す
きっとここではすべてが奇跡になる
山茶花を踏み拉き
歩いている山羊の背中をすれ違いざまに撫でる
すばやく
ざらざらとした感触が残り
溶けかかったコーラフロート片手に
僕は何をしているんだろう
僕は何をしたいんだろう
でも君はもう僕の手をとっている
力強く握られた
僕の手はたぶん本物
五時の鐘は鳴らない
ずっと丘を登っているのに
僕の足は疲れない
人工的な記憶には人工的な死がお似合いだ
すべての光はフィラメントを透過し
あなたに振りそそぐ
すべては終わっているから
あなたはただ笑うだけでいい
目と目があった瞬間に
それがわかる
幼子を抱えて
セイレーンのような視線はすべてを焼き尽くすほどの愛おしさにあふれている
醜い死はそこでは道化だ
回転する木馬
廃墟と化した遊園地の
〈未来都市は廃墟だ〉と言った建築家を思い出す
雑草に覆われたここはまさに〈未来都市〉
誰もいない
認識する主体がいなければ
それは究極の〈モノ〉性を帯びるのではないか
カントの〈物自体〉
存在者の不在が〈物自体〉を成就する
なんとも皮肉な世界
きっと造物主は世界が目的で覆われることを好まないのだろう
そんなことをつらつらと考えていると
あなたを載せた
緑が鮮やかな葉っぱにゴム鞠のようにおおわれた木馬が
動き出す
動力源などどうでもよかった
それは不気味に美しい光景
虚空へむかって漕ぎ出す架空の木馬に
わたしは手を振った
自由詩
moonlight
Copyright
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2012-10-21 22:51:30