曖昧さをかかえて
かんな
ありのままの
星空よりも
ふんわりと雲のかかった空を見上げ
満天の星空を
想像する方がきれいかもしれない
ありきたりなことだけれども
わたしたちの想像力は
ある種の創造力よりもずっとずっと鮮明だったりする
どんな物事にも対極がある
その最たるものは男と女だろうか
いやもうそれは曖昧か
宿舎の片隅にある、とても古びた
ある雨の日
そのドアを―傷だらけのドアを夜中に叩いたのがきみだった
ふたりきり
というのはどういった表現なのだろう
そうふたり
酔っぱらった酒臭い息を吐きながら―きみは彼女と喧嘩中
真夜中の散歩の約束を忘れていたのか
覚えていたのか
珍しく泥酔で現れた
夏の暑さから解き放たれたばかりの秋の気配のする―夜のそのおわり
ごろごろと大きな虎!いや
のら猫のように警戒心が強いわりには甘い声を出している
テーブルの上には電気ポット
湯が沸き始めて雲のように―現実を覆い隠す
いつの間にかのひざまくらで
すやすやと寝息を立て始めた
彼女のいるきみの
こと好きでした
好きと言うよりも
言い訳じみて気に入っていたのです
ここは頭を
撫でで罪悪感に襲わながら
夜を越すしかないのでしょう
きみが起きたならこれから何が起こるのか想像できる
できるから
こそそんなもの現実になどしたくないね
理由はひとつしかない
抱かれなど
したらそれこそきみの特別からは消えてしまうからだ―とくべつ
テーブルの上で湧いたお湯を
カップに注ぎ真夜中のコーヒーを飲むといつもより苦いようだ
一昨日だったか
友だちからかかってきた電話の一言を思い出した
似てるね。
そう似ていて
似ていて
どこか絶望的に違うから離れることもとくべつ離れないこともできない
ひざの上で目を覚ました猫いや虎がいた
ぼろぼろの部屋で
ぼろぼろのベッドの上で
ぼろぼろのセックスをしたなら
きみと恋人になんかなれやしない
―すてきな部屋で
すてきなベッドの上で
すてきなセックスをしたなら
なれやしないんだ!という現実がきちんとワイシャツのようにたたんであった
無理矢理にキスされた酒臭いにおいが漂う
どこに向かいたい
一時の感情をなぐさめるためだけの性交なんてしたくはない
拒んだ
拒んで拒んで拒んで夜を喋りあかした
季節が急速に冬に向かっているような気がした
寒くないの
寒くないよ
抱き合う必然性などないのだ
きみは申し訳なさそうな表情をしてなんだか言い訳をはじめた
それは
つまらない小説の一行目のような文脈で
がっかりして笑って笑えってといってきみを笑わせた
小鳥のさえずりが鼓膜を打ち始めた頃
帰り際
ありがと―
と言っては頬にキスをしてドアは閉まった