塩とプラム
Debby

 曲がり角を曲がらない、繰り返された言葉の、まだきみは、身体をゆらし、はじめない、否定されたなにものかの、深夜に、テレビが途絶えた後のあの、否定されたなにものかが、きみはまだ早い、カーヴを歩く、電信柱がゆるやかに、とろける、八月のはじめだ、くりかえした、雨降りの気配が、もうずっと遠くに、去ってしまったあとに。

 (停滞)
 
 台所で塩たちの湿気ていく音が、冷蔵庫のうなり声が、スプーンとスプーンの隙間で、いびつな反響をくりかえしている君の部屋だ。低い音が、断続的に、予見している、挿入された不協和音、まだ早い、きみはまだ早い、ブレーキ音が窓の外を通り過ぎる、予見されたものものと、兆された全てが。

 カップの底に残った粘るコーヒーの中で小蝿が一匹溺れている。クレイジーソルトの筒が床を転がる、鳥たちが一斉に電線を蹴り飛ばす、静かに時を刻み続けた檸檬の短針、オレンジの導火線、積み上げられたセルポジション、きみは否定された、否定された全てが、笊に詰まれた果物たちが、きみは今坂道に立って、兆されて。

 (停滞?)

 四つ打ちが並ぶ、大地が塩に覆われていく、崩れていく街並みの中で電線が絡み合う。食卓で鶏が歌い、交尾する蠅が目の前を覆い尽くす、(続きを読む)にカーソルを合わせて、君は何度目かの空しい指の動きを続ける、断ち切られた回線の先には飛び交うカラス、子ども達は笊一杯の果物を頭の上に載せて、語られた言葉の、繰り返された約束は、祈りの形を真似て、坂道を、転げ落ちる、兆している。

 (八月が兆され、去って行った後に。雨降りの後の濡れたアスファルトに)

 プラムが積み重なり、友達は消えていく、当然のように九月がやってくる、十一日に生まれた子どもたちが道を走る、笊一杯の果物を頭の上に載せて。なめらかな踝が濡れたアスファルトを踏みしめる、一斉蜂起のタイミングを、テーブルの下に絡めた手で伝え合う。このようにして円卓が転がる、坂道を転がる彼らの途方もない真円、九月がやってくる、当然のように途方もなく、兆されて、兆そうとする、君たちは今坂道の上に立って。


自由詩 塩とプラム Copyright Debby 2012-09-16 06:24:00
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