「卒業する」
ベンジャミン


大学合格の連絡をうけて
「おめでとう」くらいしか言えない僕です

嬉しさのかたわらで
ひっそりとたたずむ淋しさを
どうしても感じずにはいられない

卒業式は三月

けれど何かを卒業することは
そんな日付けによって決まるのではなく
新しい一歩を踏み出すときに刻まれる

「おめでとう」

きみは立派に頑張って
そしてもうじき僕を卒業してゆく
たぶんきみはまだ喜びの中
おとずれる卒業の日をまだ知らない

「おめでとう」

きみを中学の頃から知っている
高校三年間のささいな出来事のいくつかも
きみが覚えているように覚えている

それがきっと淋しさに姿をかえて
嬉しさの一部をうっすらと隠してしまうのだろう

「おめでとう」

きみが壁にぶつかるたびに
何度も泣かせてしまったことが
少し心残りのような気がする

不器用であることは
けっして悪いことではありません
思い描けないことは
けっして何も無いわけではありません

卒業する前に
いくつか伝えておきたいこともあるけれど
きっと僕は何も言わずに見送るでしょう

「おめでとう」

それくらいしか言えない僕でいいのです
いままでにそうして何人も見送ってきたから
見送る人は見送られる人を振り向かせてはいけない

きみがそうやって卒業するとき

それはまた
僕がきみを卒業するときでもあるからです


  


自由詩 「卒業する」 Copyright ベンジャミン 2012-09-13 01:23:53
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