脅迫小詩集
佐々宝砂

この文章をどこで見たとしても
あなたは呪われます。
たったいま、私が呪いました。
私はあなたを脅迫します。
脅迫されなさい。


パターン1

あなたは後ろ暗い四畳半の部屋で
せんべい布団に横たわり
天井を見上げる
天井には武器が吊されている

あなたが最も怖いと思う得物
あなたが女であれば
それは尖ったペニスかもしれず
あなたが男であれば
それは歯のあるバギナかもしれず

いずれにせよ
あなたはそれに襲われる運命にある


パターン2

あなたは後ろ暗い教室で
時は放課後
すでに日は落ち闇がやってくる
その足音が聞こえるだろう

誰もいない体育館でボールがはずむ
誰もいない音楽室でピアノが鳴る
誰もいない理科室で骨格が踊る

そんなことではない
そんなことなど恐るるに足らない
テケテケと足音ならぬ音をひきずって
やってくるあの存在があなたなのだ
あの存在にあなたはなるのだ


パターン3

あなたは後ろ暗い田舎のコンビニで
品出しをする値段をつける
店長は帰ってしまった
バイトはふたりきり

突然の来客はナイフを持っている
金を出せと言う
あなたはおののきながら金を出す
犯人は逃げる
あなたはカラーボールを投げる
投げる投げる投げるでも永遠に当たらない

あなたはそのコンビニにいつまでもいるのだ
当たらないカラーボールをいつまでも
殺人犯の背中めがけて投げ続けながら
自分が死んだことにも気付かずに


パターン4

あなたは後ろ暗いサイトにアクセスする
エロ画像を見ているのか
お上品でない掲示板を見ているのか
どこのサイトだか私は知らないが
確実にトラップが仕掛けられていて
確実にあなたは囚われる

さまよいにさまよう
生身のあなたがどんな人だったか
どんな人に恋していたか
何が好きで何が嫌いだったか
そんなことすべて忘れて忘れ去られて
さまよいにさまよう

あなた自身が亡霊と化す
いつか絶対に
あなたは死ぬ
死んでネットに痕跡を残し
亡霊と化す
私も



脅迫されても大丈夫。
あなたはいつか必ず死にますが、
それがいつかなんて私は知りません。
インターネットの迷宮で、
亡霊同士、また出会いましょう。

なおこの詩集は除霊をしておりません。
なんか超常現象が起きても私は責任とりませんよん。
おほほ。


自由詩 脅迫小詩集 Copyright 佐々宝砂 2004-12-12 03:00:59
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