書き割りの中で
佐々宝砂

声が届いたことなんか一度だってあっただろうか
山々は鈍い色に塗りたくられている
いつも
線路は鉄の匂いがする
いつも
阻むのはガラスの壁 ではなくて
やわらかいマシュマロ状の肉塊
頭部は既にはっきりしているが
唇はまだ縦に割れている
落ちてくる
落ちて溶ける
限りなく いや限りある それらは
どんなに長く見積もっても
あと三十年以内に摩滅する
はずで
でもまだ
落ちてくる
落ちて溶ける
毛髪が一本もない頭部を下に向けて
音もなく落ち音もなく落ち音もなく音もなく
地面に小さな血溜まりを作って
私の行く手を阻む
鈍い色に沈む山々に囲まれたまま
いつも
鉄の匂いがする線路を目の前にして
いつも
どうすることもできなくて
私は叫ぶ
叫ぶのだけれど
声が届いたことなんか一度だってあっただろうか


自由詩 書き割りの中で Copyright 佐々宝砂 2004-12-12 02:44:20
notebook Home 戻る  過去 未来