使えないもの
佐々宝砂

使えないものがある
持っていないのではなくて
使えない
使い方を知らないのではなくて
使えない
使える状態に保存してあるけれど
使えない
使わないのではなくて
使えない

相当に苛立っている夜など
それを使いたくて使いたくて
使いたくてたまらないので
とりだして眺めてみたりもする
息を吹きかけて
革で磨いてみたりもする
使えないことはわかっている
使うべきでないこともわかっている

珈琲を淹れる
ストーブをつける
読みさしの本を開く
なるべくゆったりした
長調ではないピアノ曲などかけてみる
もちろん
少しも集中できない

使えないそれがなんなのか
具体的な名前はよくわかっているし
それがなんなのか
書いたところで問題は一つも生じない
さっきは一度それがなんなのか書いてみた
でもとっとと削除した
私になにが使えないのか
そんなことを公表してたまるか
それは私の弱点なのだから

私に使えないものを
自由に使うひとたちがいる
使っているのか使っていないのか
本当のところ定かでないけれど
ともかく彼等はそれをふりかざす
私の頭上で
それはぎらぎらと輝く
それをみていると私はたいへんに苛々する

私は叫ぶべきではない
涙を流すべきではない
今はここはこの場面では
私はそのようなことをすべきではない
心配はご無用
私はとほうもなく苛々しているだけのことで
叫ぶこともできるし
泣くことだってできる
私は孤独ではないし
それほどひどい目にあったわけでもない
つまりそういう問題ではないのだ

使わない のではなく
使えない のだと
悟るまでにはいくらか時間がかかったが
それはちゃんと私の手の中にあり
私の自由にもなる
それでも使えないものは使えない

ぎらぎらと陽光を反射しながら
それは私を苛立たせる


自由詩 使えないもの Copyright 佐々宝砂 2004-12-10 00:52:27
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