忘れたいのに思い出せない
フミタケ

泡立つ泡を白々と太陽が照らす
疑いはじめがさらす願いの半端
胸にくすぶりつづける感情に
振り上げる拳もなく
張り上げる声もなく
ただひたすら穴をあけつづけて抜け殻になったぬいぐるみが
1年に3万回降りそそぐ間抜けな荒野を歩く
近くで笑うきみは蜃気楼
足下のサソリに気をつけろ
「そこへ行けば何かがある」って
「こうしていればいつかはきっと」って
忘れたいのにおもいだせない
死んでしまった人間のことを
未練がましい女たちが
自分の心だけに留めておけず
きみをないがしろにして
都合よく語るのを聴くために
僕はそこへ行くわけじゃない
何もかえられないまま
誰にも必要とされないまま
という壊音をその瞳に映す秘密を見たよ/僕が
きみの耳を大きくこじ開けたとき

街の風景が
人間の在る風景が
美しくありますように
無機で覆われるつまらない風景が
すぐにも生まれ変わりますように
絶滅したはずの/はじめからなかった風景が
あの子を守ってくれますように
混沌としたこの原始時代をたとえ生き延びられないとしても
腐ったバナナに新鮮なチョコレートを薄くまぶしたようなこぎれいな風景のなかでも
きみがキラキラとしたよろこびをなくさないでいれますように
笑顔がきみのものでありますように
「助けにいきたいけれど
どうせ洪水がやってきて
みんな迷子になってしまうの」
彼女は確かにそうささやいたんだ
なんてすてきな夢だろう
すてきな夢だったよ


自由詩 忘れたいのに思い出せない Copyright フミタケ 2012-06-30 11:56:07
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