官能の夢・枯葉の渦
高濱

「魂は何処へ行くのでしょうと、神父様に尋ねました。
解らない、今や誰も解らないと神父様は仰いました。
壊れた向日葵が黒く咲いていました。
主に頼み、祈りました、私の病を取り除いて下さい。
悪魔は哂って仰いました。貴方の物は貴方に帰るでしょうと。

ああ、天地が分轄し、十二月の後の十三月は、
蛇に咬まれて踵に打ち砕く、無花果の稔る黄昏の、
水盤に浮く方位磁針が、私自身を指し、その罪を、裁いて下さい。

私への告別、召喚状が警邏官に携えられて、
エデンの河を昇って行く、花々は黄金色に咲き、
小舟は流れる銀髪の水面を滑って行く。
恐ろしいその言葉を聞く為に、私は拡がって、
一枚の鞣革と成るでしょう。」




オリュムポス山だった土地には巨大な工場が煙を吐き、
ダヴィデ像の大量生産に追われている。
棺の様な鋳型からセラミック製の翼を搏って
虹色の天使像が跪き、工場視察官の到着を告げるベルが鳴響く、
鳥の死骸を掃き清める作業員の手から、
真鍮製のペンダントが落ちる、誰もが奇跡を信じている振りをする。
でなければ、如何して貴方は青い十字架を背負うのか。


「綺麗事は死を告げる、庭には繁縷が咲いている。
あなたは継子です、主よ、葡萄色の血を滴らせる、
磔刑執行人よ、その御使いよ。鉄の十字架に懸けられた
鷲を解き放つ赤銅色の兵士達よ。だれが死に、だれが生残ったのか、
見なさい!」


偽りの葡萄樹に羊が稔る。それらは成長して、
修道院の記録に載る、奇妙な胚嚢を持つ球根が、
切断器に肖像を掛ける、絵画の中のドアに、
捻れた人影が立っている。額縁の外へと続く、
郵便受から十二匹の蜻蛉を、採集する虫取網と腕が伸び、
ガラス瓶の中には羊の胎が収まる。結末はない。



自由詩 官能の夢・枯葉の渦 Copyright 高濱 2012-06-16 03:07:01
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