旧約の時計
高濱



「約束の時は何時になったら訪れるのでしょう、ドアを開けてあなたの来訪を待っていましたのに。」

洋燈を片手にナイフの蝶を羽ばたかせ包帯の腕解け跡形もなくなりぬ

頭部の空洞彫像の腕回して石臼の周りに花散りぬ海馬の悲鳴

奇妙な果実硬き殻持ち鉈包丁にて割れど甲虫類の脚

頭蓋骨薄きヴェールを被り婚礼の十字架前の宣誓に黒き喪服引く

二十世紀の暗闇に閉ざされて聖遺骸あり横臥せる請求書の棚引きて

タイプライターの亡霊脇に瓶抱へて蹲る二十一世紀の電気照明に



短歌 旧約の時計 Copyright 高濱 2012-06-26 00:20:52
notebook Home 戻る  過去 未来