歌う人
竜門勇気

口笛を吹くように自然に
言葉が流れる
僕はそういうふうに
歌う人になりたい

だけど
思いってやつは
トゲトゲして不恰好で
喉につかえてしまうから
僕が歌う様は
血反吐を吐く犬のように見えるそうだ
道端でのたうつ
野良犬のように見えるそうだ

新しい毎日は
新鮮なだけで苦しい
薄い空気の中
喘ぎながら登る坂道だ

喜びはきっと
その合間に見える幻想
光は瞬いて消える

心にあるものは
脳にあるもの
限られたサイズで
決められた形で
そして必要なほど大きくはないから
いつも不吉に張り詰めてる
僕には歌が必要だ

水が低いところへ動くみたいに
水たまりが地面に染みこむように
ただ自然に
歌が歌えるようになりたい

岩にしぶきを上げる激流のように
荒れ狂う春の波のように
もう
そんなのは
疲れた

人に言わせれば
僕は血を吐く犬のようだという
残酷さに叩き潰されて
血反吐を吐くケダモノのようだという
道端に干からびる激しい命の残骸のようだという
もう
そんなのは
疲れた

望んで哀れなんじゃない
哀れみを自分にかけるしか
上手く生きる方法を知らなかった


自由詩 歌う人 Copyright 竜門勇気 2012-06-09 07:31:54
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