サマー・カニバル
ホロウ・シカエルボク




液晶ヴィジョンで見かけた
クロコダイルが連れてきた幻想
半分のビート
半分の鼓動
無造作に
床に転がる
フェィドアウトの速度
むやみにシャットダウンすんなよ
明日の為に少し残しておけよ
いつか飲みほした泥水の感触を
いつか畏怖した深い裂傷のことを
目覚まし時計が告げたのはもっと致命的な何かが寸断される瞬間だった
寝床の中で断頭台に送られる必要ななにかを見ていた
それは毬のように飛んで―バウンドして失効した
そして失われた思考の断面からこちらを覗いていた
出来たての穴ぼこ
遠心分離機のおかげで発見されたペキュリアー
動体視力の端っこで認識される違和感
砂に落ちた神様はわずかな振動に埋もれて
どんな賢者の祈りもそこには届かなかった
笑い飛ばされたいつかの七の月のあとで
グラフィカルなことばかりの希望と絶望のサークル
シニカルなセンテンスのバックヤードに
鬱血するほどに隠匿された臆病の種
痒みのような痛みを呼ぶ手のひらの浅い擦り傷が呼び起こす苛立ちは
窓ガラスの亀裂が連れてくる不安定によって忘れ去られた
落ちつけよ、聞きたくもない音は余計に反響するものさ
壁に穴でもくり抜いて関係のないものを詰め込んでおきな
害なすものならいくらかは相殺してくれるさ
マイナー・コードばかりにヒットするマリンバの音色が
もう存在しなかった何かに新しい色を塗りつけてくれる
それは記憶と呼ばれるべきかそれとも予感と呼ばれるべきか?
もっとも便宜的に貼りつけられたものが機能を決定するわけでもないが
日曜日のソファーの上には
死に絶えそうなものしか腰を下ろしてはいない
日曜日のソファーの上には
日曜日のソファーの上には
今日初めて鏡を覗いて気付いたことは
お気に入りのシューズの靴底が頬に刻まれていたこと
どうりで
気分がすぐれない朝だと思ったわけだ
寝ている間に誰かが
俺の頭蓋骨を砕こうとしたのさ
その時の音を抱いてあの世に行ったなら
どんな死霊が俺を迎えてくれるのだろう
俺はその時の音を想像してみようとしたが
ご想像通りそれは見当もつかなかった
いつかどこかの土の中にこの俺の骨格が
鶏の餌のように散乱するのだ
それに誰某が線香を立てて
特に理由のない冥福を祈ってくれるのだろう
雨が降らなくても雨の臭いがするものだ、六月という季節は
脳の半分がカビた連中が表通りを闊歩している
それで余計にそいつは繁殖する
あらゆる場所に気持ちを置いていかないといけないと思った
ウィルスを駆逐するファイヤーウォールみたいに
ばら撒かれた骨の中から
シリアルナンバーのついたものだけを拾い上げて
順番に並べてみるのさ
すべてが正確に並び終わったとき
失われたなにかは報われるだろう
耳を塞ぐよりはけたたましい音を立てろ
そうしなければ
自分の声だけを聴くことはとても出来ないぜ
目を覚ませよ、正義は殺し合うためのスローガンだ
目を覚ませよ、仲間とはひとりで闘えないやつらが集めるコインだ
たった独りのせめぎ合いの中で手にするものがなければ
誰も本当のことに辿りつくことは出来ない
共有するためのフレーズは要らない
それは並べるそばから無くなってしまうものだ
血管や細胞に根を下ろした言葉を引き抜いて
血を洗わないままお前の前に差し出したい
俺の血で
お前が顔をしかめるのを見たい
そんなことの為に俺は生きてきたのだろう
日曜日のソファーの上には
死に絶えそうなものしか腰を下ろしてはいない
日曜日のソファーの上には
日曜日のソファーの上には
それでも
死に絶えずに生きていることは出来るのさ
感触がすべてではないから
そこに居座っている
憂鬱だけがすべてを決定するわけではないから
迂闊に光を求めたりしなければ
薄闇の中でも見たいものを見ることは出来るのさ
キッチンに腐敗した肉塊を並べて
食えそうなところだけを選んで切り取る
フライパンの中でその肉が上げる
歓喜の声を耳にしたことがあるか?
シンクの中の腐敗ガスの蠢きの中でも
その声ははっきりと聞くことが出来る
食事をしようぜ、焼けた肉だけでいいから
食事をしようぜ、廃棄的な酒だけでもいいから
どうせこの世は酩酊している
危険な連中が刃物を持ってうろついてるんだ
下手すりゃ
刺された方が悪いなんてことになるんだぜ
命に関わりのない場所を差し出せるように訓練しとけよ
返す刀でそいつらの首をかっ切れるように
そいつらの首を
断頭台の上からみたいにぶっ飛ばすために
日常の為に
俺たちは刃を持つ
日常の為に
俺たちはフレーズを重ねる
日常の為に
日常の為に
無意味な死体がそこら中に転がっている
食える肉を探せ
食える肉を探せよ
でないと早いうちに
お前の血は枯れて干からびてしまうぜ




自由詩 サマー・カニバル Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-06-03 13:34:21
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