難破する図書館
るるりら
愛するものに あらんかぎりの表現をあたえるために
図書館はある
道の途中で
トンビがピープルって 巻き舌ぎみに 私を呼ぶ
鳥に言われるまでもなく 私は人間さ
書物のよさが とんびに 解ってたまるか
踏み台の上で背伸びして上段のほうで
知り合ったシチリアの恋人がいうには、英語で人間を意味する
personが、芝居で役者がつけるお面を意味する
ペルソナ(personaラテン語)から来たんだって 言ってる。
あら 面白い
お面のように たくさんの表情を用意すればすればするほど
人間は人間らしくなるのかもしれないわ
すこし下段のシチリアの恋人の 叔父にあたる人が言うには
人間とはギリシア語で「死すべきもの」だともいうらしい
と いうことは たまに 死なないのが人間?なのかもしれない
愛するものたちの不思議は おおけば おおいほどいい
航海は いつも人間であることの意味を知らないまま
けれど それは
プランクトンのように
図書館の床のひんやりにも 潜んでいる
プラトンの偉大さのようにインクの匂いは 死んだままで
そのくせ生きたままのことばで わたしに打ち寄せる
つい うっかり古い潮の匂いのする鯨が私を呑み込む
呑み込まれる勇気もなく 図書館から逃げ延びる
帰り道
天を仰ぐ
「お前は にんげんだぞ」という声を聴こうとして