家路に立つ影
まーつん

好きだと 言うべきだったのだろうか
好きでもないのに?

それは僕らを貶めると
そんな乾いた 中身のない言葉を放るのは

愛について 考えるべきだったのだろうか
興味もないのに?

君は 僕を知らない
人は 多面的な生き物だ
僕の 一面だけを見て 君は近付いてきた
だから 別の面を見せると その爛れた有様に 君はひるんだ

僕は
憎しみを隠さない
欲望を隠さない
それもまた 自分という人間の
一部だから

君にそれを 愛せるだろうか

牙をむく悪意を抱き寄せて
血を流しながらも 暖められるというのなら
そう 君はその人間を愛していると そう言えるだろう

鼻息の荒い抱擁に身を任せて
骨までしゃぶられても 微笑んでいられるというのなら
そう 君はその人間を愛していると そう言えるだろう

割に合わない役回りなのさ
愛という名の一人芝居は

いつか僕は
様々な出会いを経て だれかの前にたどり着く
そのひとは 僕を否定しない 全ての側面を
時の流れに削られながら 河口へと運ばれてきた
僕という 石ころの肌 その一つ一つの面の連なり すべてに
優しく口付けをしてくれるだれか ああ

僕を海のように 深く受け入れてくれる 

だれか

ああ ほんとに
愛とはなんだろう
僕はさびしかった
だが この瞳が探し求める 家路の先に立つのは

君ではない

僕が わが身を引きずるように歩ませる 本当の家路
そこに立って 迎え入れてくれる人影は

君ではない


自由詩 家路に立つ影 Copyright まーつん 2012-03-22 23:39:10
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