しらないところ
笹子ゆら

僕は君の靴下の柄を知らないし
使ってる化粧品の会社も
朝起きて最初にすることも
目覚める時間も知らない


僕は君が使う電車の色も
半年分の定期代も
その定期を収めているケースの種類も
そのケースを仕舞っている鞄の形も
何も知らない


知らないところ 知らないところだらけ
果てしなく想像してみると
この胸の中はシュガースプーンでかき乱されて
静かに沈殿してゆくみたいだ


僕は君の舌の味を知らないし
今日着けている下着の色も
項にほくろがあるかどうかも知らない


僕は僕を見る君の視線を知らないし
当たり前に
僕のことを知っている君を知らない


この指先をフィルター越しに這わせたところで
何も変わる気配がない
知らないところは知らないところのまま
その領域は限りなく増えてゆく
僕はその領域を
今日も果てしなく想像する


コーヒーカップの底に残る融け切らないシュガー
ざらつく舌
それが赤色なのかそうじゃないのか
それすら僕は知らない


知りえないのだ


自由詩 しらないところ Copyright 笹子ゆら 2012-02-25 18:54:56
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