いまどきのY商店 ーーー新参者のエピソードに
石川敬大
ひとりは食用ハサミを購ってカバンにまぎれこませた
ひとりは旅行パンフレットに載っていたキティグッズに赤ペンをした
ふたりは義理の親娘で
口もきかない絶縁状態だった
ひとりは殺人事件の被害者にかかわったために容疑者になった
ひとりはキティを理解できずに雑巾として消費した
ふたりは
Y商店の屋根の下で食卓をはさんだ
絶縁状態だった
ひとりはひとりを嫌っていた、わけではなかった
もうひとりも
ひとりを
憎んでいた、というわけでもなかった
*
翌日に伊勢・志摩旅行を控えていた
海老・蟹・あわびなどの豪華食材がテーブルを華やかにする
夕食が待っていた
もうひとりは
あしたのY商店のため
伝統の継承のためと
被害者に頼んで黙ってパソコンを購い教室に通った
ひとりがハサミを購ったのは歯が悪いもうひとりのため
豪華食材をおいしく食べる手段として
もうひとりはキティグッズを購おうとした
とびだした娘の行方をさがしまわっておろおろした
粗野を装う老いた江戸っ娘で
着飾った言葉がどうにも苦手だったから
*
ひとりは泣いたもうひとりの思いやりのために
もうひとりも泣いたひとりの娘の真意を知って
ふたりは泣いた
たがいにそっぽをむいて