降り来る言葉  LVII
木立 悟






三角を転がし
水草の涙
地に触れて立つ
ひとつの辺


近い蒼と
遠い青が混在し
指は糸をつまめずに
夜を見送る


静電気と水彩
誰もが踊りを咎めても
密かに激しく
互いの手を握る


標本の蝶が飛び去り
音の層は深く厚くなる
歌うものなく演じるものなく
ただ見つめるものの真上をゆく


山に重なる
山ではない山
道徳ではない色が流れ着き
手鏡のなかをのぞきこむ


片羽と片羽と片羽のむこう
朝と冬に分けられながら
粉の光は降りつづく
髪と唇に降りつづく


岩山をわたる曇の端から
雨や階段は落ちては砕け
水のままの空のかけら
寸分違わぬ光に沈む


灰と緑の枝の節
標を嬲る風を聴いていた
果てては重なり
崩れるひとりを聴いていた


琥珀の冬のゆがみを眺め
しゃぼんの息を
川の流れの反対へ吹き
あなたはあなたしかいないように笑む


氷に阻まれ
舟は止まる
蒼の下の午後と三角
見つめるものを 見つめ返す































自由詩 降り来る言葉  LVII Copyright 木立 悟 2012-01-06 22:39:50
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