きみの、ひとかけら
あ。

まつげの先にくっついているのは
きっと、全てからこぼれたひとかけら


布団からはみ出た指先の冷たさに驚く
そういえば昨夜見ていたニュース番組で
朝夕の冷え込みに注意しましょう
とか何とか言っていたような
言ってなかったような、忘れたけれど


パンを焼いてさくさく食べて
洗濯機が動き始める頃には
きみは目を覚ますだろう
わたしは精一杯手をあたためて
ちょっとかさついた頬に触れるだろう


世界は途方もなく広くてつかみきれなくて
目を見張ることはまだたくさんあって
きみはその小さな手に握られた鍵を使って
あちこちに散りばめられた扉を開いて
ひとつ、ひとつ
満たされていくんだ


そして、いつか知るだろう
世界は有限であることを
緩やかな壁に囲まれていることを


有限の美しさを、
囲われた美しさを、
美しさを、美しさを、


眠るきみのまつげにくっついているのは
そんな、世界のひとかけら
細胞ひとつまで冷える冬の朝に
結晶になったひとかけら


自由詩 きみの、ひとかけら Copyright あ。 2012-01-05 15:54:46
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