わたしは咲く
あ。

咲き方がわからなかったので
見渡そうと思った


女はホースで庭に水をまく
小さく集まった緑色はより濃厚になり
葉の先からぽたりと落ちる
はねっかえるのは強すぎる太陽


夏だ。


男は半袖のシャツにカーディガンを羽織る
駅に向かう途中で腕をまくろうとし
冷たくなった風にあおられて再び袖をおろす
ぐらぐらと揺れるすすきの穂みたいに


秋だ。


子どもは積もった雪に手を伸ばし
思いがけない冷たさに驚いてひっこめる
かさかさと赤くなった頬に
白くのぼる吐息


冬だ。


家族は並んで歩いている
川沿いに植えられた桜の木は
それぞれが競うように花びらを散らし
晴れた日の、雨のような


春だ。


目に見える先にはいつも
誰かがいて
咲いていたり
散っていたり
時には歌い
時にはささやき
めぐりめぐって


また、誰かが咲く


自由詩 わたしは咲く Copyright あ。 2011-12-21 16:35:40
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