踊場にて
シャドウ ウィックフェロー

気がつけば
いつの間にか足が向いて
またここへ来てしまった
かつて住んでいた団地の
懐かしい階段をゆっくりと上がる
そう11階の踊場
時間というものが無ければ
ここで君に会えるのに

この前ここに来たとき
殺風景なコンクリートの片隅に
水仙が生けられてあった
牛乳瓶に七分目の水
緑の葉と茎の先に
白と黄色の小さな花が二輪
命のミニマムのように置かれていた

灰色の中で花は光を帯び
思わず携帯で写真を撮った
でもあんなに美しいお月様がちっぽけにしか写らないように
撮られた花は小さくてみすぼらしかった

踊場から身をのりだすと
それはくらくらするほどの高みで
思わず身をひいてしまうけれど
すこし背伸びしても落ちる心配はなさそうで
チビ助だった君はきっと苦労したろうなんて

ポケットからタオルハンカチを出して
そっと落としてみる
ハンカチは冬のキラキラした空間を斜めにすべって
音もなく地上についた
君もこんな風に落ちればよかったのに

階段を降りてハンカチを拾い
きれいに畳んでポケットにしまう
見上げると
さっきの引きこまれる感じとは逆に
突き放されるような距離を覚える

同じ距離なのにな
あそこからここまでと
ここからあそこまでと

ここにいる君をあそこで見ていた
あそこにいる君をここで見ている




自由詩 踊場にて Copyright シャドウ ウィックフェロー 2011-12-25 17:17:36
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