glossolalia
雛鳥むく

あなたのひとつめの死を現像するための暗室でいくつもの春を指折
り数えていた(宛先のしれない指示語が濫用されてしまう街の隅に
ちいさくうずくまったまま声を発さない亡霊たち(汲みあげる手つ
きで垂れ流してばかりいた(冤罪という言葉をもって火の輪を潜る
ように(たゆたう水のながれのうえに浮かぶ幾百もの語彙、素足を
浸して小川を横ぎる獣たちの群れ。


なにから話そう?
与えられた語彙のなかから、
与えられた羽根で。
(わたしたちどうしようもなくヒトです)
ひたむきな暴力を重ね
同じ文脈を
なんどもなんども反復して、
それから、
(それから?)
なにもかもが
生殖していくのを、
(立ち尽くして。)


あなた(と(語りつぐときわたしの手は真っ赤に濡れ(器が少しず
つ遠ざかっていく、この街の輪郭(眠らない都心でまるで泡沫みた
いな卵をたくさん産みました(いくつの春を数えた?(こそばゆい
延命を続ける現像室の影(暗幕で閉ざし、その深淵を中心とした首
都圏でわたしたち交合をした(だいたいの語彙はとっくに逃がして
しまったから、


燃えているのか
(萌えているのか)
不明瞭な日本語の森のなかで、
わたしたち
(なぜ異語が溢れる?)
離れてゆく
街の確かな質量が、
(街?)
死角で、
息を殺したまま交合する甲虫


(立ち尽くして、)


あなたの、ひとつめの死(それからわたしは数のかぞえかたを覚え
た。文字、文法、それから(切り離された風景を現像するための暗
室に春が咲き乱れていた(いくつの死を数えた?(遠ざかっていく
泡卵の輪郭に手を添えたまま息絶えてしまったあなたの輪郭に手を
添え、いま(例外なく焚書されるうつくしい詩(さあ、許されると
いい。なにもかもすべてひとしく。(こうして。爍々と灯りつづけ
る語彙をもって。
 
 
 


自由詩 glossolalia Copyright 雛鳥むく 2011-12-10 02:47:03
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