女王は生き血の風呂から手を伸ばし
佐々宝砂
女王は生き血の風呂から手を伸ばし
君の頬をなでまわした
君は少しうろたえて後ずさり
そこここに跳ね散った血液の飛沫に
足を滑らせた
べっとりと頬を濡らす血を
拳で拭いながら
君は家出した猫を思う
乾涸らびてゆく河床を思う
生き血の匂いは
もう
君の感覚にも甘いものとなっている
**
少女がひとり連れてこられる
少女の服装は質素で
化粧気のない唇は恐怖に歪んでいる
君は君の斧で少女の首をあっさり切り落とす
逆さ吊りにされた首の切り口から血があふれ
女王の風呂に流れ込んでゆく
女王は嬰児の笑いを笑い
君を生き血の風呂にひきずりこもうとする
君はその手を払いのけて
いつか見た清浄な海を
しくしく痛む胃壁に描いてみている
なまぬるい鉄の風が吹き抜けてゆく
**
君は女王に告げられずにいる
あなたは明日から
二度と太陽を見られないのだと
窓がない部屋の石造りの壁龕に
あなたは生きながら塗り込められるのだと
君は斧の汚れをおざなりに洗い流す
凝固し始めている血液のあいまから
女王の乳首が見え隠れする
女王へのせめてものはなむけに
君は大きな姿見を急いで用意しておくべきだ
君は明日にも処刑されるのだから
そしてそのとき君は
むしろ晴れやかな気分になって
幽閉された女王が垂れ流すであろう
糞尿の臭いを想像するのだ
この文書は以下の文書グループに登録されています。
Strange Lovers