あなたは笑うか?
佐々宝砂

ほら今日もラインは元気に流れてくる
あなたよりあたしより元気に
たぶんこの工場の中でダントツ元気に

あたしは箱を広げる
あたしは箱に折り目をつける
あたしは箱を組み立てる
あたしは箱に蓋をする

それからあたしはその箱を
大きな箱に詰め込んでゆく
箱はこハコで日は暮れる

ううん、そんな簡単なことじゃない。

何も考えていないようで
無心にひたすら動いているようで
その実あたしの心は考えている
一瞬の隙を盗んで時計を見る
止まっているような気がする
さっきから何度見ても
ずっと五時五十五分
休憩までにあと五分

ラインが今日も元気に流れているように
時は今日も元気に流れているはずで
だからあたしは
セーシュンとやらを箱の山に費やしてしまったはずで
だけど何度見ても時計は止まっているようで

それでも時は絶対に進んでいる
休憩はいつかくる
終わるときがいつかくる

あなたにも
あたしにも
この元気いっぱいのラインにさえも

時の流れは不可逆で残酷だと人は言うけれど
今のあたしにはそれが救いだ
だから
元気に流れる工場のラインを追い越して
元気いっぱいに時よ流れよ

こんな理由でこんなことを真剣に願う
あたしを

あなたは笑うか?





ルクセンブルクの薔薇名義で発表。


自由詩 あなたは笑うか? Copyright 佐々宝砂 2004-11-21 03:11:00
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労働歌(ルクセンブルクの薔薇詩編)