電話BOXイリュージョン
和田カマリ

この街に唯一残った
道端の電話BOXから
大音量を上げて
呼び出し音が
鳴り響いていた

俺は中に入って
とりあえず
受話器を取った
とたんに音は止み
男の声がした

「もしもし。電信電話公社です。」
ずいぶん古風な男だ
「ただいま電話BOXの点検中です。」
そんなのがあるのか
知らなかった

「お客様、速やかなご対応、感謝します。」
「お礼に何か、望を叶えさせて下さい。」
「じゃぁ、女が欲しい。」
俺がそう言うと
急にボタンが点滅しだした

ポチッと押してみると
「110番警察です、どうしました。」
元気そうな女が出てきた

おお
テレフォンセックスか
懐かしいな
お前は
ミニスカポリスか

俺は気分を出して
「ハァハァ。」
息を荒くした

「どうしました。」
どないもこないもない
ムード出していこうや
ネェチャン
「ハァハァ。」

「何かあったんですか。」
だめだこいつ
台詞がいけてない
要再教育だ

俺はマグロ女を恫喝した
「ちゃんと感じている演技をしろ。」
「・・・・・・。」
「こんなものがSEXって言えるか、ぼけぇ。」
「早く、くわえ始めろよ、エアで。」
「・・・・・・。」

それにしてもこの女
内容も無いのに
えらく引っ張りやがるな
時間だけ過ぎたら
銭のもらえるような
甘いシステムなのか?

ネチネチと
大根女優に対し
罵詈雑言を浴びせ続け
かれこれ
2〜30分が経過していた

そろそろ
他の女への
チェンジを
要求しようかと
思っていた矢先

突然辺りが
全台フィーバーの
パチンコ屋みたいに
真っ赤になって
騒がしくなった

白と黒を基調にした
デコラティブな車が
数台俺のいる
電話BOXの周りを
取り囲んでいた

ドアが開き
警察の制服を着た
コスプレイヤーたちが
雪崩を打って
飛び出して来たのだ

「大砲、大砲。」
こいつら
俺の自慢の逸物を
褒めちぎっている

なんだそうか
ソープランドか
送迎車か
お前らポンビキか
吉原か
それとも
赤羽か?
エラク派手だね

「わかった、わかった、俺は一人だよ。」

電話BOXから
引きずり出された俺
苛烈な客引きで
もみくちゃ
だけど
悪い気はしなかった

「最低三発は抜かしてもらうよ。」

今夜はシックな
黒いブレスレットを
手首にカチッと
プレゼントしてくれた
お前の店に決めたぜ


自由詩 電話BOXイリュージョン Copyright 和田カマリ 2011-09-22 18:51:27
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