悪い癖
花キリン

          
悪い癖だと叱られた
食べてすぐ横になると牛になると言われたが
病人は食べてすぐ横になっても
牛にはならなかった
子ども心に不思議に思った

病人は注射を打っているから
牛にはならない
長い点滴管をじっと見つめながら
妙に納得して羨ましく思った

病院食は美味そうに見えたが不味かった
それでもお見舞いのお菓子が一杯あったから
お見舞いが大好きになった

お見舞いに行くたびに
入院してみたいと思った
白いシーツとベッドは憧れの寝室だった

宿題もなく
叱られることもなく
看護婦さんは優しそうだった
スイッチを押すと直ぐに来てくれた

青白い顔をしていた叔父さんは
それからしばらくして死んだ
死んだことは知らされていなかったから
泣きながらお見舞いをせがんだ

あれから私は大人になって
何度も入院した
死の間際まで駆け上って行ってまわりを驚かせた
これも悪い癖だと叱られた
親戚を集めるのに大変なんだからと
すごい剣幕で叱られた

牛にはならなかったが
ごろりと横になることが多すぎて
牛のように動作がのろまになった
悪い癖だと叱られているが
死ぬまで治らない癖になってしまった



自由詩 悪い癖 Copyright 花キリン 2011-09-22 18:44:33
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