河童
……とある蛙
遠野の山道/峠の途中 一本の巨大な枝垂れ桜/
とおののやまみち とうげのとちゅう しだれやなぎにかっぱがぽつり
春先にその桜の根元/その下で春先に相撲を取る河童一匹/
はるさきいつもすもうがめあて みちをとおるこどもをみつけ
通学路を通る小学生は目を伏せたまま/尻を押さえて小走りに/
やれ!すもうをたらんとおおごえかける しりかかえてはしるこら
河童大音声で挑戦状/近頃の子供は誰も相撲等付き合わん/
しりこだまぬかれてたまるかと めせんをはずしはしりさる
河童の欲しがる尻子玉/早く納税しなければ/
かっぱは りゅうおう おそろしく はやくほしいぞ しりこだま
突然河童の後頭部にサッカーボール/唸りを立てて飛んできて/
かっぱがとつぜんつんのめり、あたまにあたるおおきなたまは
河童は思わず前のめり/きっと振り返ったその先に/
ほんだのけったおおきなけまり やれこのばけものやけまりせむ
不敵な笑いの本田君/サッカーやらんかこの化物やい/
ぶきみなほんだのわらいがお かっぱにけまりができるわけなく
河童にサッカー知るわけもなく/相撲やらんかこのガキども/
すもうやらんかこのがきども だいおんじょうでさけんだが
一一人 球を蹴る蹴る 球を蹴る/河童に向かって球を蹴る/
たまは しほうから はっぽうから ばんばんばんばん とんでくる
たまらん、たまらん、/河童は軽トラの荷台に数個の尻小玉を放り込み/
ほうほうのていのかっぱがにげる
すたこらやんやと逃げてった。/すたこらさっさ/すたこらさ/
すたこらさっさとにげてゆく すたこらささとにげてゆく
※おまけ
遠野の山道
峠の途中 一本の巨大な枝垂れ桜
春先にその桜の根元
河童が一匹大言壮語
ボルヘスが蹲る
妖怪という名の実体は夢から覚めた現実で、
その現実の楽しさ辛さ
錯覚したまま空を指さす
狂態の外側を覆う大気は循環せずに逆流し
夢から覚めたまた別の夢
遠野の山道に孤立する。