架空の書庫
組曲

たとえばかつて

真っ白なキャンパスを前に
僕は少しの不安と
多くの期待に似た興奮を覚えていた

ように思う

つまりは
人の記憶は曖昧なもので





目覚めたのは昼前だった
上体を起こし 酷い目眩を覚える
自分が予想していたよりも深刻な二日酔いの症状である
呼吸が とても苦しい


グラスに氷とペリエを入れて一気に飲む
喉ではじける炭酸は嘘のように心地よく
淀んだ記憶は 少しずつ回復してきたかに思われた


しかし それは気のせいである
多くの記憶は 確実に失われつつあることに僕は気付いていた
その自覚は 本の背表紙は見れるものの
中身を読むことが出来ないような感覚で
僕の気持ちを不安にさせる


零れ落ちる記憶
誰かと聴いた音楽
雨音に流した涙
夜明け前に歩いた川沿いの道


正確に思い出すことの出来なくなった記憶やその軌跡のことを
ぼんやりと考えながら
僕は数時間後にすることになる遅刻の言い訳についても考えていた



自由詩 架空の書庫 Copyright 組曲 2011-09-14 00:54:41
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