恵比寿へ行ったの
はだいろ


ぼくはずっと、
ぼくという人間が、夢見たことや、
苦しみが報われたり、
いつか救われたいと願うことが、
すべて、
恋愛によって明らかになるものだと、
信じてきたようなところがある。

ある朝、
電車に乗っていて、
あかるい光がさしこみ、
こころのなかから、喜びが溢れてきて、
つい、うふふと微笑んでしまうような。
そうゆう日が、
いつか、恋人ができたら、
訪れるのだと、
41年間くらい、信じてきた。


日曜日、
彼女と、恵比寿でデートした。
どこへ行こうとも決められなかったから、
映画を検索したら、
ジョンレノンのドキュメンタリーがあったので、
彼女はまったく興味はなさそうだけれど、
さすがにカンフーパンダが見たいと言われても、
それなら上野の動物園へゆこうよと言って、
ガーデンプレイスへの動く歩道の上を、
すいすい泳いで行ったのだ。

彼女は、具合があまりよくなく、
叙々園のチゲうどんをやっとすすって、
映画のあいだは、
ずっと寝ていた。
ぼくは、やっぱり感動してはみても、
ああ、
いつか、こんな感動を、
恋人と、分かち合いたいと願っていたのに、
その後お茶をしても、
なんせ寝てたんだから、
映画の話題なんて何もありゃしない。


もちろんロックンロール少年のぼくは、
ジョンレノンが好きなのは、当たり前なのだけれど、
いっぽうで、
この程度の好き具合でよいのかどうか、
ほんとうにジョンレノンに影響された人に会うと、
よくわからないところもある。
でも、映画は、良かった。
どこが良かったかというと、
ジョンレノンは、40歳で死んだのである。
そして、
いつも、同世代に向けて、
歌ってるんだ、って言っていた。
ぼくも41歳になった。
涙が出た。
つらいよな。
わかるぜ。
楽じゃないよな。
ジョンレノンが、そう歌っているのだ。


そう、楽じゃないのだ。
どうしてかはわからないが、
誰も、楽じゃない。
彼女の部屋へ行って、
テレビで、イヌイットのドキュメンタリーを見た。
狩猟だけで暮らす家族。
楽じゃない。
アザラシも、トナカイも、
一角クジラも、楽じゃない。

彼女は、
結局、おなかの具合がよくならず、
そのまま、
うんうん言いながら寝てしまった。
ジョンとヨーコのように、
魚と海のような関係には、
まるでほど遠いけれど、
帰りの満員電車のなかから、
心配したメールを送ると、
すぐに返信が来る。


楽じゃないぜ。
生きて行くということは。






自由詩 恵比寿へ行ったの Copyright はだいろ 2011-08-29 21:04:59
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