遠い昔に死んでいてしまいたかった。
折口也
僕は遠い昔に生まれ
すでに死んでいてしまいたかったな
神話は失なわれ
青空はなんにもない
空虚な哀しみに
剥げ落ちてしまった
今日の空を見上げると
夜の美しい闇も
ざわめきのライトに暴かれて
物の怪のあらわる隙もない
耳をすますと
どこからか行き場を探し続ける
物の怪達の哀しみが
幻聴の中にきこえてくる
そうでなければ
もっと、もっと、遠い
未来に生まれたかったな
魂を持たない
一体の人造人間として
愛による哀しみに
揺らがないような
今日の空を見上げると
僕は哀しい
生身の体をあからさまにされて
神の棲処も破壊され
雲だけが傷痕のようにやさしい
僕は遠い昔に生まれ
もう、死んでいてしまいたかったな