コルベの暖炉 
服部 剛

在りし日のコルベ神父という人が 
住んでいた、大浦天主堂坂下の 
記念館に入り 
賛美歌の聞こえてくる奥の部屋に 

教え子達と共に日々を歩み 
雑誌を印刷した思い出の日々の 
モノクロームの写真から 
あまりにも澄んだ瞳が 
眼鏡の奥からこちらに、微笑んでいた 

展示写真を見ながら 
コルベ神父という人の 
生涯を辿った晩年は 
恐ろしい、アウシュビッツの収容所 

飢餓室に呼び出され 
震える若い父親の身代わりに 
「わたしがいきます」と言って前に出た 
コルベ神父の頬骨は 
イエスのように、痩せこけていた 

見えない風に背中を押され 
身ごもった妻と新婚旅行で 
長崎まで辿り着き 
コルベ神父が静かに微笑む 
大きい写真の前に肩を並べて 
跪いた僕等は、瞳を潤ませ 
蝋燭の火をふたつ、灯した 

帰る前、最後に 
コルベ神父がいた頃から 
今も部屋に残る 
赤煉瓦の暖炉の前にふたり並んで 
両手をあわせ、瞳を閉じる 

暖炉の穴の暗闇に 
永遠とわの炎は揺らめいて 
僕等のこころは 
不思議なほどに、暖かかった 



  ※この詩を、コルベ神父の魂に贈ります。 






 


自由詩 コルベの暖炉  Copyright 服部 剛 2011-07-03 09:36:09
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