マリアの石 ー祈念坂にてー 
服部 剛

在りし日の遠藤先生が好きだった 
大浦天主堂の脇道を入り 
祈念坂の石段をのぼっていたら 
足元に、サンタマリアの姿のような 
ましろい石が落ちていた 

柔らかそうな石なので 
頭と足を両手で握ったら、 
二つに折れてしまった 

なにか大切なものを 
壊してしまったようで 
裏切ってしまったようで 
折れた二つを 
思わず両手で、くっつけた 

(僕の背負った鞄の中にある 
 遠藤先生の「切支丹の里」という 
 本を開けば 
 深夜の灯りに照らされた 
 空白の原稿用紙に向かう 
 先生の背後から亡き母の幻が 
 両手を合わせて、屈んでいる  ) 

のぼりきった石段を振り返り 
緑の木々の囁きに背中を押されながら 
この静かな散歩道をのぼってくる 
遠藤先生の面影を偲び 

手のひらに乗せた 
サンタマリアの顔は前よりも 
少し屈んで、僕をじっと視ていた 



  ※この詩を、遠藤周作先生の魂に贈ります。  








自由詩 マリアの石 ー祈念坂にてー  Copyright 服部 剛 2011-07-03 09:23:29
notebook Home 戻る  過去 未来