願望
寒雪


生き残った耳に
今も聞こえてくるのは
見下ろした小さな林から
厳かに流れてくるリズム
目を覚ますと
ぼくは丘の上で
膝から下を切り取られて
地面に突き刺されて
両腕を磔になったイエスを
無様に真似た格好で
遠くから仰ぎ見ると
田んぼを守ることも出来ない
のんきな案山子と瓜二つ
足元には
誰が落としていったのかは
到底わかりもしないけど
護身銃とピーナッツみたいな弾丸
うっとりとするような
甘い輝きのキャラメルが
手に入れようと懸命に
手を伸ばしてみるけど
背中に定規を入れられて
姿勢を正すように親から言われた
そんな心持ちのぼくは
たかだか一メートルの距離を
いつまでも埋めることが出来ない


暗闇はいつもいつも同じじゃなくて
月のきまぐれや雲の奔放さに振り回されて
刹那刹那の喜怒哀楽をぼくに見せ付ける
暗闇を傷つけないよう機嫌を損ねないよう
血液の中を溶け出して流れ続けている涙を
そっとため息に変えて柔らかく暗闇と混ぜてみる
少しだけ暗闇が笑ったのでぼくも微笑んでみせる


いつまでも絶えることのない
アフリカ大陸の民族が奏でる
心臓をかき乱すリズム
突き立てられたぼくは
目を閉じてじっとしてしまいたい
思い通りになってくれない
ぼくの感情をなだめながら
しっかりときっぱりと
両目を見開くと
幽かにようやく映る
小さな林の枯れ果てた冬の頭
その悲しみを受け止めようと
見下ろして記憶のカメラに写して
胸の奥底に飾りつける


こんな姿のぼくだけれど
明日は平等に来てくれるのだろうか


自由詩 願望 Copyright 寒雪 2011-04-20 09:28:00
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