睡夢 / ****'04
小野 一縷

黒い水晶の森を 黒曜石の渓谷を
吹き抜けて 暗がりの新緑を 震わす風
やがて透明に 純化されてしまう 花粉を 
雪の結晶のように鋭利に 纏った有害な
棘ある風 絶えない夜


暖かくして おやすみなさい


きみがまだ 眠っている頃
路上で 白い息吐く走者と 陽の光とが 共に輝き
夜から朝へ 変成 移行する
事象と因果が 交錯する 時が訪れる

密猟者の醒めた眼で待つ
ペンという 銃を構え 前後の照準を合わせ
瞬間 言葉で素描する 始まりと終わりの溶解を 

ただ

もう分かっている 
多くは繋がってしまうこと
多くは変わってしまうこと
多くは虚ろだということ

「何も気にしないで いいよ」

だから きみは 安心して寝ていられる


終わりという始まりへ向けて 大気が流れる
その透明な薫りは 月輪のように澄んでいる
その純度は 限りなく正確に 時間の経過を切り刻む 
届かない 回転するばかりの 旅先へ向かう路上だ ここは
目覚めを無くした昏睡のように 
真実を黙秘する時刻が 延々と吹き抜ける


結局 いつも 何も 分からないまま


旅に 疲れたなら
今夜は もう おやすみ
詩集を閉じて あくびをして 
ベッドに入れば お終いの物語


おやすみなさい


風が 吹いている






自由詩 睡夢 / ****'04 Copyright 小野 一縷 2011-04-06 01:59:20
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