白い人
佐々宝砂



白い人は浜辺を見つめ
見つめられることで
浜辺は姿を変える
夏から秋へ

飛び交いながら鴎たちは嘆く
生まれそこなった夏を
背後には大きな波
あれは九番目の波

白い人は微笑んでいる
軽やかな音を立てる
白い紙でできた檻が
白い人のまわりを覆っている





それでも朝の大地を照らす
赤く陰鬱に老いた太陽が
ふくれあがったその相貌を歪ませて
もういちど輝こうとする
白い人は地下の洞窟で
その輝きに身悶え
振り返る

時間は裏返り空間は逆巻き次元は歪曲し

白い人はいくたびも殺され

背中の火傷みみずばれ掌の赤い傷痕
     
 跡傷の勢去指たれさ断切腕たれぎち

      れさ殺もびたくいは人い白

り返裏は間時き巻逆は間空し曲歪は元次

              る返り振
          え悶身にき輝のそ
        で窟洞の下地は人い白
       るすとうこ輝どちいうも
  てせま歪を貌相のそたっがあれくふ
       が陽太たい老に鬱陰く赤
      すら照を地大の朝もでれそ





白い人は浜辺を見つめ
見つめられることで
浜辺は姿を変える
夏から秋へ

夏は終わった!夏は終わった!と
鴎たちが叫んでは飛び交う
大きな波が退いてゆく
たぶん九番目の波が

紙の檻に囚われたまま
白い人は傷を数える

しかしこれが何度目の
何巡目の秋だったか
白い人は
もう思い出すことができない





自由詩 白い人 Copyright 佐々宝砂 2004-11-06 12:56:39
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