その後で
N.K.

その後で
脊髄反射が起こったように思った
開いた手を握りしめた
その後で
守らねばと思った
思い及ばぬ人々の尊厳を

「語りえぬものについては人は沈黙しなければならない」

今年7月までの有限の画面は
お前も有限なのだと伝えていた
有限なこぶしを振るわせて
有限な言葉を握りつぶそうとした

この状況を感じ取ってはならない
と脊髄は命じていた
感じ取ることは罪だ
思いを超えたものに対しては
何も発してはならない

この状況へ
突き上げられないこぶしは
凝り固まって
ただ想いを握りつぶした

その後で

ドラッグストアに入荷した
ボックスティッシュを前にしたら
喉から何本も手が出た
その手でまた幾つも幾つもこぶしを握った
のどが詰まって泣きたいと思った

ティッシュで涙をふけぬまま
泣き疲れて その後で
降り下ろせないこぶしから
開き方を忘れたこぶしの間から
それでもすり抜ける何かを感じる
今年の3月をすり抜ける声がする

気をつけろ
これから沈黙の大地が様々な冒涜の声を挙げ始める
これから目覚めた大地から春の生気を充填されて
種々の暴力が威勢よく生えて来る

その後で
詩人たちはまた歌わねばならない
4月は最も残酷な月だと


自由詩 その後で Copyright N.K. 2011-03-21 23:03:09
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