忠犬のように 
服部 剛

僕より年上の君は、あの日  
(つきあっちゃいけない・・・)
と複雑な女心を語ったけれど 

一年ほど前に君は 
仕事帰りに待ち合わせた 
神保町の珈琲店「さぼうる」の
向かいの席に煌く瞳で、現れた。  

昨夜の晩飯は 
仕事帰りの焼肉屋で、一人 
店員の韓国人のおばちゃんが 
「夫婦ハ一心同体ヨ」と言っていたが 

結婚して半年近い僕は  
「いってきます」の朝から 
「ただいま」の夜まで 
ブーメランを追いかけて 
咥えて戻る忠犬の如く 
君が降りてくるバスの前まで歩き 
白い吐息を昇らせながら待つ日々です  

そして今夜は一年前と同じ 
初めて君とデートした 
神保町の「さぼうる」で 
向かいの空席に 
あの日の君の笑顔の輪郭を浮かべ 

「この店では、夢を売っています・・・」 
と呟く老マスターの置いた珈琲を啜りながら 
徒然なるまま、ノートにペンを走らせる 

この詩を書き終えたら 
赤煉瓦の壁に洋鐙の顔が灯る 
店を出て地下へ下り、半蔵門線に乗って 
仕事帰りの君を迎えに、地上へ上ろう 
待ち合わせのハチ公前に向かって 








自由詩 忠犬のように  Copyright 服部 剛 2011-02-09 23:30:09
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