月光譚
非在の虹

月の現われはあたかも
暗転した舞台の酔っ払いだ。
うすぼんやりとして赤い。

街の光を受けているのか。月よ。
今日の色はいやに人工的である。
お前の眼下には今夜も多くの酔っ払いが
笑ったり 泣いたり
はたまた他人の上に折り重なって眠っている。

お前は地上に光を投げかけているのか。月よ。
地上には人の死骸が 多く転がっている。
そのどれもが 
今夜は生きているように赤みが射している。

おお やはり殺し合いは
夜昼わかたず行われ
子供すらもこのありさまである。

幸福も不幸もなべて生物の状況で
快楽の後のあられもない寝姿の若い男女も
方向も分からぬ砲撃に縮こまる少年兵も
それはそれ
生き物のなりゆきだろうか。

赤いのは酔っているからか。月よ。
やはり地上も酔っている。
腫れて化膿した地面に酒精が流れている。
こんな夜には 月よ。
青く照って地上のほてりを冷ましてくれ。
生き物の悲しい死を悼んでくれ。


自由詩 月光譚 Copyright 非在の虹 2011-02-08 08:17:35
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