御葬式
一 二

林さんの御葬式会場は
林家斎場
何故か緊張感が無い

吉野さんの御葬式会場は
吉野家斎場
なんだか牛丼屋のようだ

一二の御葬式会場は
一家斎場
「誰の?」と云いたくなる


俺は父の兄の義理のお父さんという
見ず知らずの人の御葬式に行った
黒いスーツを持っていないため
学生服で行くことになった

故人に所縁がある人は
御葬式は悲しいものだが
そうでない人は
三千円から一万円くらいを払い
参列者の様子を見ながら
故人が生前、人に
愛されていたか
そうでなかったかを
オニギリと天ぷらと寿司と煮しめを
食べながら眺める人間観察である

少なくとも父の兄の義理のお父さんは
身内だけでなく
同年代の友達の人にまで
涙を流してもらえる人だった

俺はまだ
病気になったり
事故に遭ったり
災害に遭ったり
戦争が起こったり
自分を大事にできなくなったりなど
そんな風にならない限り
あと何十年も生きていける
(これを当たり前と思ってしまうのは
俺の悪い癖だ)

けれど俺は
死んだとき誰かに悲しんでもらえるのに
何十年かでは足りなさそうに感じるし
何百年もかかりそうだ

だからもし、俺の葬式が
家族葬になってしまわないよう
俺の葬式の看板を
街のどこかで見た人は
「おー、やってるやってる」
と云いながら居酒屋みたいな
軽いノリで来て欲しい

香典返しはできないが香典は要らないし
オニギリと天ぷらと寿司と煮しめを
ご馳走したい

とにかく辛気臭くて堅苦しい
御葬式にしたくない
笑って俺のことを見送って欲しい


誰かを悲しくさせるのは簡単だが
自分に不幸があったとき
誰かに悲しんでもらえるのは難しい

自分の不幸で誰かが悲しむのは
二倍苦しい

そんなことを教えてくれた
父の兄の義理のお父さんに
生きているうちに会ってみたかった


自由詩 御葬式 Copyright 一 二 2011-01-25 21:00:42
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