月山T田
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おいしい食い物とまずい食い物の差が
遺伝子が数ミクロン違う程度の
差でしかないように

豚と屑の違いは
単に遺伝子レベルの話

猿と人はだいぶ違う
霊性とか



 ものを集める時には注意しなければならないことがあって、まず、ものを集めても偉くならないということ。全国の式内社をまわったからといって社会的地位は上昇せず、さらに人格的に向上するわけでもない。むしろ、ものごとに固執するあさましさが前面に出てきて、よりさもしさが強まる。

 つぎに、ものを集めたことに自信を持ってはいけない、ということ。ラーメン発見伝というマンガがあって、そのなかに、窓際銀行員がラーメン屋めぐりをしてデータベースをつくり、批評して悦に入っているが、同僚からは馬鹿にされている、という話が出てくる。自分の本業をおろそかにしてものを集めることは、本業での評価が得られていない場合、周囲からは逃避と判断される。

 さらに、ものを集めたことを得々と語ってはいけない、ということ。ものを集めたという話について聞きたい人間は、周囲にはまずおらず、飲み屋に行って金を払ってホステスに話せば多少は感心したふりをしてくれるかもしれないが、所詮偽の感心にすぎない。

 あと、偉くなったと錯覚してはいけないということ。自分の高校の時の教師がやたらとインテリぶっていて、本を読んだ数を自慢し、授業中にフロイトやデカルトといった単語を持ち出して満足げな顔をしていたが、自分はそういう知的ぶった高校教師が大嫌いで、

 なぜならまず自分の行動の軌跡を自慢げに語る自己顕示欲の強さが気に食わない。また、知的ぶることは、知的ぶれない立場の人間を踏みつけにする悪事であると気づいていない鈍感さが癪に障る。これまで人類のうち大多数の人間が、ニーチェという言葉もジェンダーという言葉も一度も発することを許されず、それらの言葉を口にして優越感に浸る人間に敵意を抱きながら、貧困と無知の内に滅びて行ったが、そのような不幸な人間を差し置いて、自分だけが知的特権を甘受するかのごとき態度を取る、我欲に支配された自己主張の強さが嫌い。

 本を読む場合は隠れて読み、決して読んだことを人に明かさず、そのままひっそりと死んで行くのが処世として最も美しい。


自由詩 月山T田 Copyright a 2011-01-10 00:44:32
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