dissimilation.
吉田ぐんじょう
・
夫があまり鋭く見つめるから
わたしはしだいに削れてゆく
夫と婚姻関係を結んでからのわたしは
もう余程うすっぺらくなったらしい
強く手を握られると
きしゃり と指ごと潰れるから
かなしい
・
眠る夫の口から
糸がはみ出ていた
引っ張るとそれにくっついて
汚いどろどろしたものがどんどん出てくる
もう何も出てこなくなるまで
三十分ほど引っ張っただろうか
洗面器いっぱいに取れたどろどろは
死にたてみたいに温かだった
庭の隅に埋葬した
翌朝
起きてきた夫は
つやつやとよい顔色で
愚痴も言わずにきびきび動く
清らかなひとになっていた
青ざめるほどに後悔した
わたしは夫の悪いところをこそ
受け入れて許さねばならなかったのに
受け入れることも許すこともできずに
わたしたち
どうやって暮らしてけばいいんだろう
・
誕生日には
自分の部屋に鍵をかけ
既にそこで待っている
一歳年上の自分と交代するつもりだ
交代した後は押し入れに横たわり
もう二度と目覚めない
わたしはいつでもこうしてきた
そういう風に出来ているのだ
二十七人目のわたしは
二十八人目のわたしと交代し
二十六人目のわたしの隣に横たわる
そして短く息をつき
静かに眼を閉じるだろう
そのときはすぐにやってくる
だから今のうちにさりげなく
あいしていたと伝えておこう