繰り澄ます
木屋 亞万

北風が吹き込んで
天空の冷たさで街が満たされたら
山の端が私を呼んでいるような気がする
雲が驚くほど早く流れているのは
いまが師走だからなのだ

北極の揺れている音がする
歌っているか、踊っているか
オーロラは夜空のカーテンではなく
北極が纏うスカートの裾
誰の手にも収まることのない天の羽衣

あなたの黒髪が夜の闇に紛れてしまったことも
遠い過去に思えるほどの寒さ
もうその陰を探すことすらやめてしまった
けれど夜道を歩いていると
偶然に君の香を嗅ぐことがある

ふと
感謝の念で体内が満ちていくのがわかる
それはいつも干からびた寒天みたいに悲しい

薄い雲では隠せないほどに
月が黄色く輝いていた夜が
瞬く間に明けていく朝
お茶目な乳歯のように月が空に残っている
コップの底の溶けかけの氷を愛でるように
なるべく空を見上げて歩く

散歩をするときはなるべく満遍なく
足を散らすようにしなければ
最近は南の方に足を伸ばしていないので
今日は南方へと舞い散っていく

さようならに余計なことはしないように
宇宙の成り行きに任せていたなら
来年辺りにまた逢えるかもしれない

南極は聞こえないはずの北極の歌に
ずっと耳を澄ましている
その凍った背中は嫌いではない

北の端も南の端も寒いので
世界は繰り返し澄み渡っていく


自由詩 繰り澄ます Copyright 木屋 亞万 2010-12-24 01:50:50
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