非日常的なレストラン
小川麻由美

フランスパンを食べ終えた
皿にできたパンくずの水玉模様
コーヒーを飲みながら見つめている

隣りの席に座っているカップル
若く楽しげで
物憂げな私に
新鮮な印象を与えた

反対側の席を見たらギョっとした
緑色の火星人がウィトゲンシュタインと話している
昔1500円位払って暗闇で見た気がする
まだ緑色の火星人は地球に留まっていたのか

私がこの2人
2人と言っていいかわからないが
彼らを紹介してくれた人は
エイズで他界してしまった

ウィトゲンシュタインのお仕事は思考し続けることだった
難しいことはわからない
私の頭はずっと悩まされてきた
「語りえないことについては、沈黙するしかない」

私は間違いなく元の意味を履き違えている
何かの陳腐なスローガンのようなことしか
浮かばないのが悲しい

私の頭の中を巡り巡ったところで
私の脳を構成している
細胞たちではたちうちできない
私の脳にパルスは走らない

これからもその一文が浮かぶに
過ぎないだろう

氷で薄まったコーヒーを飲みながら
夫に話しかけてみることにした



自由詩 非日常的なレストラン Copyright 小川麻由美 2010-12-14 11:28:55
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