Ending
yuko

紺青にけぶる空を薙ぐようによぎる、小型の戦闘機は燈色に燃える閃光をつれて。ゆっくりと浮き上がりはじめた海面に、硝煙にむせた妊婦たちが次々に溺れていく。あなたはやわらかな耳朶をふるわせて魚道を探す。冷たい海のそこを、天色の目をしたこどもたちがパレードのようにつらなって、透明なからだに透ける無数の静脈がふつふつと、沸騰しているよ。きみたちの削ぎ切れた甘皮がビルとビルのすきまをやさしく埋めていく。



白い鳥たちが残した羽を、ひとつひとつ空に、縫い付けていく配達夫たちの横を、僕はパラボラアンテナを背負って、そうだね、今世界は一番綺麗だと、つぶやきながら階段を昇っていく。平らかな海にぶつかって、つぶれる骨の音は新しい光のために。ねえ、そこでここで、高い建物から順に、倒壊していくのが見えるよ。海面は上昇をつづけ、境界がほろほろと崩れていくせかいで、ぼくの輪郭もまた螺旋状に崩れていき、行き場のない悲鳴がそこここに反響している。



弱いピストルが銃声を鳴らして。無数のあなたが空へ、飛び立っていく。乱立するビル群がうす青く発光するので、たまらなく飛び降りていく生き物たちの、鼓動が僕を抱いて、もつれた足を甘く噛む。耳の奥底を水が流れる音が聞こえるかい。海面の暗さがあなたの瞳に似て、反射する赤い光に僕は誘い込まれてしまいそうで足をはやめて僕は、海の深度をはかる正確な計器になる。



空を切り裂いていく、あなたがよく左耳につけていたピアスのような形の舟までもが飲み込まれていく海に空に朝に夜に。こどもたちの隊列はよりいっそう長くうねり、その熱が海をぼこぼこと唸らせる。浮かんだ妊婦たちの放射状にのびた髪は色がぬけてまるで花のようで、僕の背中のアンテナは狂った電波ばかり受信してもう使い物になるのかもわからない。瓦解するせかいの音がこだまする、僕たちの終焉を抱いて。



あなたを越えて僕はここでさいごの生き物でありたかった。戦いを終えて着床したばかりの精子たちまでもがみな死んで、あらゆるが破水して羊水がせかいを埋めていく。そうだ、僕たちははじめからだれもゆるされてなどいない。そんなことははじめからわかっていたんだよ。目の端を彗星がよぎる。すべてが壊れて今、あなたの鼓動だけが耳に遠い。



自由詩 Ending Copyright yuko 2010-10-28 20:10:30
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