鉄棒遊び
あ。
重心をほんの少しずらせば
スローモーションに身体は傾き
世界はするりとひっくり返る
そのままで
そのままでいて
頭の上に足をつけたきみが見えるよ
わたしたちが歩く世界は
いつだってわずかにずれていて
当たり前だと感じている日常は
時にぽつんと遠い時間になって
きみの
ほこりっぽいスニーカーのつまさきに
名前も知らない花が見えるね
今のわたしにはそれだって
足の裏を流れる雲と同じで
どこか曖昧な出来事でしかなくて
その震える花びらに触れたくて
思わず両手を差し伸べる
瞬間に身体は支えを失う
雲はわたしの頭上に戻り
花は突然の風に大きく揺れた
世界が再びひっくり返ったことを知る
だらりと伸びた手のひらからは
鉄と錆びの匂いがした
懐かしいくたびれたスニーカーは
砂のひとつぶだってわたしには遠かった